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お母さまは太陽

「これってなんの音だっけ?」「ド!」

「そのとおり!じゃあこれは?」「レ!」

「そうだね!じゃあこれはなにかな?」「ミ!」

「わあ、すごいねえ!全部言えたね!じゃあもう一回、これは何だっけ?」

「…ド!…」

「じゃあもう一回、これは何だっけ?」とたずねた音は

ミのひとつ下のレです。

小さな子どもたちは、音を読むのも弾くのも下行が苦手。

ド、レ、ミ…と上っていくのはどんどん読めるし弾けるけど、

下っていくと、あらあら、さっき読めた音じゃないの、どうしたの?

となってしまいます。

こうなるとお母さまは途端にハラハラ。

「あ!間違えた!」「なぜできないの?」

「覚えが悪いのかしら…」

「練習しなさいってあれだけ言ったのに!」

レッスン中によそ見をしだすと

「この子はあんまり向いてないのかしら…」

etc.etc.…

そのお気持ち、とってもよくわかります。

私もそうでした。

でもどうぞ、あまり心配なさらないで。

たとえば上の例でいうと、

人間はもともと下行が苦手なのです。

駅の階段を思い出してみてください。

ホームから電車がまもなく発車…

きゃあ、待って!とダッシュで階段を駆け上がる時は

しんどいけれど、つまづく不安はないでしょう。

でも下りの階段だとどうでしょう?

気持ちは焦るのに、

足元が上りの時ほど一気には進まない。

下行は上行に比べて

人間の脳と身体のつながりをより必要とするのです。

高校生など若い人たちが

ホームへの階段をまるでカモシカのように一気に駆け下りるのは、

彼らの脳と身体のつながりが一番ピークの頃だから。

お年寄りはどんどん衰えていき、足元がおぼつかなくなります。

実際、お年寄りの階段での事故は、

上行より下行の方が圧倒的に多いそうです。

逆に小さい子どもたちは

まだ脳と身体のつながりが完全にできていないから不安定なのです。

また、小さいうちの集中力はまだまだとても短いもの。

キョロキョロしたり、あくびをしたり…

子どもたちは「もうくたびれたよー」

というサインをとっても素直に出してくれますから、

すぐにお手玉などに切り替えて身体を動かします。

こんな風に小さい子どもたちのレッスンは

お母さまには一喜一憂、

まるでジェットコースターかもしれません。

先週はできなかったことが、今週はできた!という時もあるし、

先週はできたのに、今週はできない…という時もあります。

でも私たち教師は

小さい子どもたちはらせん状に習得していくことを知っていますから、

決して焦りません。

いろんな工夫をして、

少しずつでも確実に定着することを考えています。

そしてもっと違うところを細かく観察しています。

そこには毎回と言っていいほど成長や進歩の芽があるのです。

我が子が間違えてしまったり答に詰まったりすると、

不安になるのはお母さまとして自然なこと、反射的なことです。

でも、その不安を子どもたちはとても敏感に察します。

間違えてしまったことをお母さまが不満に感じているのでは?

という子どもたちの側の「不安」が

心を萎縮させてしまい、成長を停滞させてしまいます。

間違えちゃっても、1歩進んで2歩下がっても、

「だいじょうぶ!」と心で魔法の呪文を唱えて

笑顔で迎えてあげてください。

導入期のレッスンは、

お子さんがピアノと友達になって

ふたりで旅する音楽の道のはじまりです。

ふたり並んでかけ足で進む日もあれば

小石につまづいて泣きべその日もあります。

でもお母さま、お父さまは、どんな日も、

そう、晴れの日も曇りの日も、

ピアノと歩くこの道を見守る

あたたかい太陽であってくださいますように。

どんなに優れた教師による優れたレッスンよりも

この太陽こそが子どもたちと音楽をしっかりと結びつけてくれる、

偉大な存在なのです。

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