ある日のレッスンから~音のイメージを育てましょう~
みなさんはレッスンの時に、先生から「とてもいい音!」と言われたことが何度もあるでしょう?
習い始めで、まだ楽譜を間違わないように弾くのが精いっぱい…
今週はあんまり練習していなくて、ちっともスラスラ弾けない…
そんな余裕のない演奏でも、
「ああ、しっかり入ってるね!」「ここはとてもいい音だったわよ!」と
言われたことがあるはずです。
そんな時のみなさんの顔はキョトーン…。
「え?そうなの…?」「この音って…どんな音で弾いたっけ?」
「いっぱい間違えたのに…先生は私を励まそうと思ってるのかなあ…」
そう、いつもレッスンでは、ミスにばかり気を取られず、もっと大事なことに気づけるように、
自分の演奏のいいところに気づけるように、みなさんを励ましていますよ。
でもいい音じゃないものを「いいね!」とは決して言いません。
「いい音」って、どんな音でしょう?
誰でも習い始めの頃は、それをまだ知らないのです。
ド、レ、ミ、と音の高さの違いはわかっても、音の響きの違いはよくわかりません。
それは自分の耳が「美しい音」とはどんな音かををまだ知らないので、聴き分けられないのです。
耳がまだ育っていないということですね。
「音色」というように、音にはいろんな色合いがあります。
目には見えないけれど、耳に、心に感じる色です。
音色や響きは言葉のように、人の心に何かを伝える力があります。
そして実際の言葉で表現できないことを伝えるのが音楽です。
先生はみなさんに、そんないろんな音の色をいろんな表現で教えています。
「ベルベットのように艶のある深い音」「パリッとしたハリのある音」
「遠くから聞こえてくるような音」「ピアニシモだけどちゃんと芯のある音」
「
温かい広がりのある音」「花びらのように軽い音」…
「バイオリンのようにグーンとひと弓で…」「フルートのようになめらかに…」
先生の伝え方はむずかしいかもしれませんね。
でも、音をよく聴いて、色や、耳に感じる感触を、いろんなイメージに置き換えることは、
とても大切なことなのです。
絵を見たり、他の楽器の演奏を聴いたり、本を読んだりすること…
毎日の生活の中の色々な心の動きや感動は、
みなさんの演奏をとても豊かで生き生きしたものにしてくれます。
楽譜に書いてある音符を、ただ間違えずに弾くだけでは、
朗読なら棒読み、絵なら白黒の絵です。
楽譜は白黒ですが、ピアノで弾いた時に
私たちの生きている世界のような、色とりどりの音楽になるように
作曲家は心を込めて書いています。
もちろん最初からそれが表現できなくてもかまいません。
表情のある音がなかなか作れなくても、一生懸命イメージして、
こんな感じで弾いたら出せるかな?と、タッチ(鍵盤の触れ方)や自分の音に集中すること、
探ることが一番最初の練習です。
正しい手や指のフォーム、フレーズや和音の感じ方、そんな基礎をしっかり固めていけば、
どんどん表現力がついてきます。
だからすぐにわからなくても、作れなくても、
ここはそんな風に弾くんだということを「知る」ことからまずスタートしましょう。
ピアノを弾くことは、心の世界を表現することです。
「エリーゼのためにはもうやった!」
「バッハのメヌエットはもう弾いた!」…
曲をもらっては次々と、ゲームのようにクリアしていくことではありません。
その曲を「どう弾いたのか」が一番大事なことなのです。
今練習している小さな曲も、心の世界を表せたら、世界一の名曲になりますよ。