

弾くこと、歌うこと
このHPには、「歌」「歌う」という言葉がたくさん出てきます。 もしかしたら「弾く」という言葉より多いかもしれません。 レッスンでも 「ここでブレスしましょう」 「ここからは新しい息で」 「新しい声で歌いなおして…」 歌、歌、歌、うた… ピアノのレッスンなのに、どうして?と最初はとまどうでしょう。 歌うというのは、自分の身体を楽器にして演奏することです。 心と身体はぴったりつながっていますから、 悲しい歌は悲しそうに、楽しい歌は楽しそうに、すぐ歌えるはずですね。 ピアノはどうでしょう。 ピアノは弾く人の身体から離れた楽器です。 管楽器のように自分の息を吹き込んで鳴らすものでもありません。 しかも巨大です! 自分の身体の一部だと思うことはちょっと難しいですね。 このふたつの楽器は正反対のように思えます。 でも、とても深い関係にあるのです。 まず、歌のことを考えてみましょう。 歌を歌うとき、心を込めて歌いましょう、とよく言われます。 歌は歌詞がついていますから、 歌う人も聴く人も、表現しやすく伝わりやすい。 …でもそんなに簡単なものでしょうか? 自分の


指先に蝶を…
ピアノがとても上手な人… というと、どんなことが思い浮かぶでしょうか? グランドピアノの前に座って、華やかな曲、パワフルな曲を弾いている人。 稲妻のような、目にも止まらぬ機敏な指の動き… きっとこんな想像をするでしょうね。 フランツ・リストという作曲家は「超絶技巧練習曲」という、 名前からして何だかもの凄そうな曲を書いています。 彼自身たいへんな技巧派のピアニストで、圧倒的なテクニックで 「ピアノの魔術師」と呼ばれていました。 でも、習い始めの、今の自分の指はどうでしょう? 超絶的にスロー? うんとがんばって速く弾いてみたらつまづいてばかり、 あっという間にくたびれちゃう…。 大丈夫、練習していくうちにだんだん速く、 大きな和音もしっかりつかんで弾けるようになってきます。 けれどちょっと待ってください。 「ピアノが上手な人」は、スポーツマンであっては困ります。 ピアノでかけっこしたり、ダンベルを持ち上げたりするのではありません。 ここを勘違いしていることが、とても多いように思われます。 それは最初に書いたように、ピアノが上手だということを、 視覚


甘く、あまく、あま~く…?
ブルクミュラーの最初の曲 「素直な心」の一小節目には、 「dolce」という発想用語があります。 音楽用語辞典で調べてみると、 「柔らかく・愛らしく・甘美に・甘く」と書かれています。 「dolce」はイタリア語。 スィーツを意味する言葉でもあります。 ドルチェの意味を覚えることは簡単ですが、 ピアノでドルチェに歌うことは なかなか難しいですね。 柔らかく、と言われると、 腰のないふにゃふにゃな音になってしまったり。 可愛らしく、と言われると、 音を小さくするくらいしか思いつかない…。 ドルチェは「弱く」ではありません。ましてふにゃふにゃはとても困ります。 こんなときは想像力をうんと使いましょう。 そのものずばり、甘いお菓子を想像してみるのはどうでしょう? たとえば白黒の音符の一粒一粒が、 色とりどりのキャンディーだとしたら? 透き通った繊細な、宝石のようなキャンディーです。 イチゴ味…メロン味…次はオレンジ…ブルーはミント… ひとつぶ弾くたびに、あま~い香りが漂って、夢のよう。 こんな小さなケーキはどうでしょう? 一口食べたとたんにお姫様や王子様


手綱をしっかりと!
8分音符の習い始めで、一番気をつけなければいけないことは、 正確な分割です。 ほら、8分音符が転んでますよ! と注意されることはありませんか? 8分音符が出てくると小節の中に音符がたくさん… なんだか速く弾かなくては… とそわそわしてしまうのかもしれません。 8分音符の練習に入ったら、 まずこんな風に考えてみましょう。 バスに乗ったとき、 座席に一人でゆったり座っていたところに、誰かが隣に座ってきたら ひとりの時よりちょっとぴっちり詰まった感じがします。 8分音符はあんな感じです。 でも、一つの座席がみんな二人ずつでぴっちり埋まっても、 バスの走るスピードは変わりませんね。 バスの中がたとえぎゅうぎゅうの満員だって、 走る速さは変わらないでしょう? 乗っている人の人数がどんなでも、 決められたスピードを守ってバスは走ります。 音楽の全体の速さも同じ、 指定されたテンポ通りのまま、少しも変わりません。 だからどんなにたくさん8分音符が出てきても、 焦ったりあわてることなく、 充分落ち着いて弾きましょう。 では「ころぶ」とはどういう状態でしょうか。


たとえば雨のしずくのように
習い始めの頃 一番うまくいかないことは 「脱力する」ということのようです。 一生懸命譜面を読んで、 指を指示通りに動かして、 1ト、2ト、3ト… 自分では気がついていないけれど 指、手の甲、ひじ、肩… カチカチになっています。 力んでいるつもりはないはずなのに 自分の手を見たら、 鍵盤に触れていない他の指が ピン!とまっすぐにつっぱっていませんか? 手のひらいっぱいに力を込めて パンパンに張りつめた状態で 両手を打ち合わせてみてください。 パチッと小さくはじけたような音だけしか出ませんね。 今度は手のひらの力を抜いて 腕もひじも柔らかく、 手首もしなやかに打ち合わせてみましょう。 パァン…!と豊かな深い響きが出るでしょう? 脱力、力を抜くというのは クラゲのようにぐにゃぐにゃになることではなくて、 身体の自然な重みを利用するということです。 手の甲から指が自然に伸びて その重みがしずくのように 指先からしたたり落ちることを、 いろんな風にイメージしてみましょう。 木の葉からほろりと落ちる朝露のしずく。 パンケーキの種をスプーンで持ち上げて ぼたっ


心で弾くピアノ
新しい曲を練習する時は 先生が最初にさっと弾いてくださったり、 CDを聴いたりすることが多いですね。 でも 少しずつ、まず自分で楽譜を黙読する習慣をつけましょう。 ピアノを鳴らさないで 眼だけで楽譜を読み、 心の中で音を鳴らしてみます。 最初は片手ずつ読んでいってもいいでしょう。 でも慣れてきたら 片手からではなく 両手でゆっくりと左右両方を鳴らしてみましょう― 心の中で、ですよ。 実際の練習も 実は片手ずつではなく 両手ですぐに譜読みをすると、 とても大きな力になります。 これは先生にやり方を指導していただきながらでないと 一人では混乱してしまうでしょう。 でも目で弾くことを練習することなら 自分で少しずつ始められます。 楽譜を黙読するのはとても退屈で 習慣にするのはなかなかむずかしいもの。 曲を頭の中で演奏して 全体をとらえてみることは ちょうど建築家が まず建物を細かいところまで鮮やかに思い描き それから設計図を描いて 実際に模型を組み立てていくのと同じです。 新しい楽譜をもらって ひとつひとつ音をたどっていって 何回も何回も練習して… た


練習を楽しく
習いたいけど難しいかな… 続けられるかな… こんな不安を持って体験レッスンを受けてみて、 うん、やってみよう!とレッスンの始まり。 ピアノの美しい響きに魅せられて これをもっと味わってみたい、 自分の思いを乗せてうたってみたい! こんな夢に心を躍らせてのスタートでしょう。
どんな曲が弾けるかな? これから続くピアノの道にはどんな花が咲いているのかな… でも 思った以上に自分の指が 思うように動かないことにびっくりしたり、 単調な練習曲にうんざりしたり…。 こんな曲がこんな風に弾けたらいいなあ…という夢は、 空にぽつんと浮かぶ迷子の風船のように はるか遠く遠く、小さくなっていく…。 もし今がこんな気持ちなら さあ、元気を出して。 どんなことでもそうですが 最初はみんなよちよち歩きです。 夢見ているような曲が早く弾ける魔法はないかしら? ちゃんとありますよ。 少しずつでも毎日の練習が その夢をかなえてくれるただ一つの魔法です。 最初はまだ曲も短くて とても単純なリズムとメロディでしょう。 だからこそ今のうちに まず毎日15分の練習を続けましょう。


わたしだけの歌を
新学期もひと月を過ぎ、 少しずつ新しい環境が身に落ち着いてくる季節になりました。 進学、進級とともに 新しい先生のクラスで勉強を始めたり、 新しいレッスンを始めたり… 春は緊張と期待の入り混じった日々ですね。 ところでレッスンの時、 自分で練習している時に、 どんなことを考えながら 楽譜に向かっていますか? 楽譜に書いてある通りに弾くこと、 間違えないように注意すること… 練習していると いろんな気づきや考えが シャボン玉のように生まれてきませんか? メロディからいろんなイメージが ふくらんできたりもするでしょう。 そんな気づきやイメージ ミスしやすいところへのチェックなど どんどん楽譜に書き込んでみましょう。 先生から教えていただく前に 自分の「研究結果」を書き留めておくのです。 そう、練習は立派な「研究」です。 「手首を少し低めに構えて」 「ひじがゆれないこと」 「このP(ピアノ)はふわりと浮き上がるように」… 実際の弾き方で工夫したこと また自分の心の耳でとらえた感覚を 言葉にして書き込んでいきます。 ほんのひとこと、 自分だけがわかるキー


通いなれたその道を
今日は運指、指使いの話をしましょう。 先生から「指使いをちゃんと守りなさい!」 と厳しく注意されていませんか? 音は間違ってないんだからいいじゃない… いいえ、そうではありません。 譜読みの中で 一番おろそかにされやすいのが指使いです。 書いてある通りに運ぶのが難しい。 よけい不自然な感じがする… そんな疑問は 誰しも感じたことがあると思います。 まず指使いというのは 地図で言う正しい道順のようなもの。 目的地に一番やさしく、 スムーズに連れて行ってくれます。 習い始めのミスタッチ、 つまづきの9割は 間違った指使いが原因で起こるようです。 もしあなたが新しい学校に行くのに 今日はこの道のあの角をちょっと曲がってみよう、 今日はあっちの道のあの路地を抜けてみよう… こんな風に毎回いきあたりばったりに歩いていたら、 いつまでたってもすっと学校にはたどり着けません。 今日はこの道でうまく行けても ほら、その角でわからなくなってしまったり、
行き止まりに出くわして立往生してしまったり。 ピアノも同じなのです。 最初の譜読みの時に 指使いをしっかりと守


このすばらしい音楽を
めっきり寒くなりました。 先月あたりから始まった受験シーズン。 この日のために長い長い練習、 努力を積み重ねてきました。 それはきっと演奏だけではなく 心もしっかり成長させてくれたはずです。 今日までの実力のすべてを出し切れるように 支えてもらっている家族、先生に感謝して、 心身を整えて臨みましょう。 当たり前のことですが 指を大切に、よくメンテナンスしてください。 爪も、うっかり深爪してしまった! というようなことがないように。 面倒がらずに外出の時は 必ず手袋をいつもはめるようにしましょう。 思いがけない怪我からも守ってくれます。 保温には革の手袋が最適です。 最初は冷たいと感じますが、長時間温めてくれます。 演奏前には 指の芯まで温かい油が回りきった感じがするでしょう。 寒さで肩もこわばりがちです、 簡単なストレッチも心がけましょう。 肩、肩甲骨周り、 背中全体はピアノの演奏の重要な部分。 風邪気味の時に練習すると これがよくわかるはずです。 いつも柔軟に温かくしておきましょう。 実技試験が怖い…。 だれでもみんな感じることです。 ずらりと